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物語に基づく医療

掲載月:2007/09

ひょうご経済戦略2007年9月号

 

財団法人兵庫県健康財団 保健検診センター所長 伊藤 一夫

 

 医療の世界では、20年程前から、EBM(Evidence Based Medicine)という考え方が主流となってきています。EBMとは、「証拠に基づく医療」という意味です。

 

 というと、何か変だなと思われませんか。これまでの医療は証拠に基づいていなかったのかと。実は、これまでの医療は必ずしも明らかな科学的根拠に基づいて行われていたわけではなくて、専門家の経験や勘によっていた部分も結構ありました。

 

 たとえば、乳癌に対して、以前は大きく切除する手術が行われていましたが、今では乳房を温存する方法等、小さな手術が主流となってきています。これもEBMによるものです。

 

 このEBMの証拠はどうやって得られるのでしょうか。乳癌でいいますと同じ程度の進行度の患者さんを集めて、くじ引きで2つのグループに分け、各々に別々の手術法を行います。そして、どちらのグループの方が、長生きするかを観察します。

 

 これをRCT(無作為比較対照試験)といい、一番確かな証拠とされています。ただこの方法は、お金と時間がかかりますので、普及するのに困難を伴いました。

 

 また薬については寿命で評価すると時間がかかりますので、とりあえずの目的、その症状がとれたか、その病気が治ったかだけで評価することが主でした。

 

 しかし、最近、寿命を評価基準とするRCTが行われるようになってきました。そしてAの治療法では生存率が80%、Bでは50%といったデーターが集められてきています。そして、インフォームドコンセント(説明と同意)として、こういったデーターを患者さんに伝え、納得していただいたうえで、治療が行われるようになってきています。

 

 しかし、EBMは、確かにたくさんの人数ではそのとおりですが、一人一人の患者さんにとっては、80%治るとか50%治るわけではなくて、治るか治らないかになります。

 

 また、はっきりしたデーターの無い病気もたくさんあります。


 また、医療は不確実なもので、人間の体は非常に複雑で人によって差も大きく、医学には限界があります。(小松秀樹著『医療の限界』新潮新書)


 自動販売機のように同じボタンを押せば、同じ商品が出るというわけにはいきません。(商品の入れ間違いは別として)

 

 そこで、最近、NBM(Narrative Based Medicine)が登場してきました。ナラティブといっても馴染みがないかもしれませんが、ナレーション(Narration)と言えば、ご存知かと思います。福島県立医大の菊池臣一先生はNBMの特長として次のようなものを挙げています。

 1 患者さんの語る病の体験という「物語」に耳を傾け、尊重する。
 2 患者さんにとっては、科学的な説明だけが唯一の真実ではないことを理解する。
 3 患者さんの語る物語を共有し、そこから新しい物語が創造されることを重視する。


 そして、EBMはサイエンスで、NBMはアートであるとおっしゃっています。

 

 新潟大学の宮坂道夫先生は、

「『患者の物語』と『文学作品としての物語』実はそんなに大きな違いはない。事実の記述以上の情報を含んでいる。患者の物語は文学フィクション以上に複雑な深い森のようなものである。外から眺めているのか、分け入ってゆくのか、このような問いかけをしてゆくことが、NBMの本質として求められるような気がする。」
とおっしゃっています。

 

 科学的データーだけがすべてではありません。EBMを基礎にしつつ、患者さんと医療者が一緒になって作り上げていく物語、そういった物語に基づいた医療が始まっています。そこでは患者さんが主役です。

 

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