ひょうご経済戦略 2008年3月号
財団法人兵庫県健康財団保健検診センター所長
労働衛生コンサルタント 日本医師会認定産業医 伊藤 一夫
健康相談をしている時に、「視力」についていろんな誤解に会うことがあります。たとえば、「遠視は遠くまで見える良い目である。」、「老眼鏡をかけると老眼が進む。」、「近視になるのは生活習慣が悪いから。」とか。
視力測定は学校の健康診断で行われており、1.5とか0.8とかの数字を絶対的な数字と思っておられた方もいらっしゃるのではないかと思います。
しかし、「視力」はちょっとしたことで変動しやすく、朝起きた時と、作業をした後とではかなり異なります。
最近、学校ではあまり細かく測定する必要はないということで、370方式と呼ばれる方法で、1.0が見えればA、0.7が見えればB、0.3が見えればC、0.3が見えなければDと4段階に分けています。
以前、学校では遠くが見える目が良い目であるとして、近視の予防のための指導が行われてきました。これは、その昔、良い兵隊さんになるためには、良い視力でなくてはならないとされた時代の名残りではないかと思います。
今では、近視は、本人の心がけが悪いから、生活習慣が悪いから起こるのではなく、眼球の形や寸法の個人差にすぎないとされ、「近視の予防法」は目の疲労の防止には役立つかもしれませんが、近視の予防になるかは不明とされています。
人間の目は、本来遠くを見るようにできています。目の調節力を働かせない状態で、一番遠くを見られるようになっています。この時、正視の人は遠く(理論的には無限遠から)の光に焦点が合います。
近視の人はその人の見える一番遠く(軽度の近視の人で1m程度)からの光に焦点が合います。それより遠くは、ぼやけます。そして正視の人も近視の人もそれより近くを見ようとすると、目の調節力を働かせ、屈折力を強くしなければなりません。遠視の人は遠くを見るのにも調節力を働かせており、近くを見るためには、さらに強い調節が必要となります。
つまり、正視は遠くが見やすい目、近視は近くが見やすい目、遠視は遠くも近くも調節が必要な目です。最近のように、パソコン等近くを見る作業が増加してきますと、楽に近くを見ることができる近視の方が良い目だとも言えます。
しかし、この近視の人が眼鏡で視力1.5に矯正しますと、近くを見るためには余分な調整が必要となります。ゆるめの眼鏡の方が楽に作業ができることもあります。
老眼はこの調節力が低下し、それが自覚された状態です。目の調節力の低下は10歳頃から始まりますが、自覚される年齢には個人差があります。目の調節力を最大に働かせた点を近点といいますが、近点の短い近視の人(近くまで見える人)の方が、正視や遠視の人より、自覚されるのが遅れるようです。
老眼鏡の使用には抵抗される方が多く見られますが、老眼鏡の使用と調節力の低下には全く関係ありません。使ってみると、「こんなに楽か。」と言われる方も多くおられます。
正視の矯正には遠視の矯正と同じ凸レンズを使用します。近視の人は、ドライブ用の眼鏡とパソコン用眼鏡の使い分けや多焦点眼鏡(遠近両用眼鏡)等その人のライフスタイルで選択してください。
なお、正視、近視、遠視の評価は目の屈折力を測定するオートレフラクトメーターで行います。「視力」と屈折状態とは必ずしも一致しません。「視力」は様々な要素の影響を受けます。
また最近では、遠くを見る視力(5m視力)だけでなく、近くを見る視力(50cm視力、33cm視力)も検査するようになってきました。
現代生活での眼鏡は、近視はゆるく、老眼は早く、これが快適です。
時々は眼科医でのチェックも忘れずに。